その澱を飲ませてくれと彼は言った。ロマネ コンティ 当たり年 1978年

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Romanée Conti<ロマネ コンティ>の当たり年として知られているのは、

1923, 1937, 1945, 1978, 1985, 1990, 1996, 1999, 2005, 2009, 2010, 2012, 2015

といったところでしょうか。2003年はラターシュの評価が上なので一旦外してあります。

その当たり年のひとつ、1978年のロマネ コンティを飲むワイン会を主催した時の様子をご紹介します。

1978年 ロマネ コンティを飲む会(2002年)

瓶熟成は24年。さらに熟成は可能と思われましたが、ピークが続くうちに飲もうということになりました。

人数9人で割りました。一人80mlほど。グラス1杯を経過を見ながらゆっくり飲めるギリギリの量です。

ワインの質感を比較する対象として同じ1978年のシャトーラトゥールを用意しました。ラトゥールはワイン会開始前に抜栓し、直後は固かったので2時間放置すると、強い揮発性の香り(アロマ)が立ちはじめました。

ポイヤックらしいスパイス、ハーブの濃密さの後からベリー系が顔を覗かせ、甘やかさよりも非常に野生的な香り。タンニンは滑らかで多量。余韻にモカ、燻したニュアンス、空のグラスからはプルーン、樽のバニラ香。味わいの固い印象はリコルクによるものと思われました。

いよいよロマネ コンティのコルクを抜く

左ロマネコンティ/右ラトゥールのコルクが若い(リコルク)

24年を経たロマネコンティのコルクはまだ強度があり、割れることなく抜くことができました。

そっと1杯目のグラスに注いですぐに立ち昇る薫り高さ。皆の顔がほころびました。

「ロマネコンティを開けると、部屋中に香りが立ちこめる」といわれることがありますが、それがよくわかります。

おそらく薫り高さでは、良い年のDRCリシュブールも引けをとらないので、現実的な価格で集まる会として仲間でリシュブールを開けてもロマネコンティと共通する香りが楽しめます。

当日のテイスティングメモを読み返してみます。

土、枯れ草、熟成香の荘厳な香り、香ばしさに特徴のある、まさに「DRC(ドメーヌ ド ラ ロマネ コンティ)」の香り。

時間をおいて一口飲むと果実の甘み、レーズンの凝縮感があるのがわかる。ラトゥールの濃さよりロマネコンティの甘やかさを感じるところに、このヴィンテージのロマネコンティがいかに熟度が高いかを示している。

強さよりもバランスが素晴らしく、香りと味と触感が丸く調和していることを愛でながらいただく。

このレベルのワインを飲んでわかったことは、飲み手がワインを問うのではなく、ワインが飲み手を問うということ。

ワインはただそこに存在し、飲み手と交じわる刹那に「あなたに私のことがわかりますか」「あなたに私は響きますか」と、静かに問いかけてくるのです。

バカラ製 ロマネコンティ グラスで飲むと・・・

参加メンバーの中に、著名な歯科医で相当なワイン通がいらっしゃいました。

彼はこの日のためにBacarrat<バカラ>のワイングラス、その名も「ロマネコンティ」デギュスタシオン モデルを持参されました。ロマネコンティを味わうのにこれ以上のグラスはない、はずでした。

ところが、このグラスはボウル部分の容量が1500ml(ワイン2本分)もあり、人の顔が入りそうな大きさゆえ、相対的に中のロマネコンティ量がとても少ない状態になってしまいました。

せっかくの香りがグラス内に溜まらないことがわかり、結局皆と同じグラスに移し変えることになりました。

教訓
「バカラのロマネコンティ グラスは、一人もしくは二人で、ロマネコンティをたっぷり注いで飲む人用である」

≫ バカラ ロマネコンティ グラスは、1脚4万円弱くらいから(通販)

ロマネ コンティの澱

その歯科医さんは、ロマネコンティを堪能した後で、瓶に残っている澱を見て言いました。

その澱を飲ませて

すると皆も笑いながら「私も、私も」となり、ほんの少しずつ分けて飲みました。

普通、ワインの澱はザラザラしてエグみがあり美味しいものではありません。しかしロマネコンティの澱は、なめらかで香りがあり、なんとも味わい深かったのです。皆が澱のおかわりを欲しがるほどに。

発見
「ロマネコンティは澱まで旨い」

以上、参加した全員の記憶に残る「ロマネコンティ 1978年 を飲む会」は終了しました。

ワインの審美眼が磨かれ、上質なワインを選ぶ物差しのレベルが上がった、非常に重要な経験値となりました。

某ワイン輸入元の営業さんは自腹で参加し、その後10年以上経った今でも「あの会は凄かった。当日の資料を大事に保管しています」と言ってくれます。

ロマネコンティの味の描写をもっと知りたい方は、≫ 開高健 氏の名著「ロマネ・コンティ・一九三五年」をどうぞ。
(但しそのお話に出てくる描写は予習や追体験としては使えないのです。理由はお読みになればわかります。)

ロマネ コンティは世界一高い価格のワイン

ロマネコンティが世界一高い価格で取引されるワインであることは間違いないでしょう。

よく引用されるのが、ワインオークションでの落札価格です。各Auction Resultsの記録リンク付きでご紹介します。
(外貨/円換算は変動幅あり)

◆ 1985年 ロマネ コンティ 12本
→ 237,000米ドル(約160~230万円/本)
/ 2007年5月22日 クリスティーズ NY

◆ 1985年 ロマネ コンティ 12本
→ 240,000米ドル(約160~230万円/本)
/ 2007年10月25日 クリスティーズ Bev Hills

◆ 1945年 ロマネ コンティ 1本
→ 109,250スイスFr(約1000~1300万円/本)
/ 2011年5月17日 クリスティーズ Geneva

◆ 1978年 ロマネ コンティ 12本
→ 3,675,000香港ドル(約400~440万円/本)
/ 2013年11月22日 クリスティーズ 香港

◆ 1988年 ロマネ コンティ 12本
→ 1,592,500香港ドル(約180~200万円/本)
/ 2014年11月24日 クリスティーズ 香港

◆ 1988年 ロマネ コンティ 12本
→ 198,000英ポンド(約250万円/本)
/ 2017年9月21日 クリスティーズ London

◆ 1992年-2010年の19ヴィンテージ×6本 ロマネ コンティ 114本セット
→ 12,556,250香港ドル(約1億8000万円/Set)
(ヴィンテージ考慮なし平均 約160万円/本)
/ 2014年10月4日 サザビーズ 香港

この落札価格はワインの値段というよりも骨董品の値段であり、保管して高くなったらまた転売される可能性があります。特定のヴィンテージは時間が経つほど世の中から無くなっていきますので、今後のオークションでさらに高値が更新されることも予想されます。

オンラインショップの価格と在庫をヴィンテージ順に調べてみました。
(2017年10月時点/価格・在庫は予告なく変更される場合があります)

1875年 ロマネコンティ ¥2,211,429
1923年 ロマネコンティ ¥1,080,000
1957年 ロマネコンティ ¥2,138,400
1972年 ロマネコンティ ¥2,723,000
1975年 ロマネコンティ ¥1,280,000
1976年 ロマネコンティ ¥1,280,000
1976年 ロマネコンティ ¥2,721,600
1978年 ロマネコンティ ¥2,160,000
1981年 ロマネコンティ ¥1,944,000
1983年 ロマネコンティ ¥1,480,000
1990年 ロマネコンティ ¥3,085,714
1990年 ロマネコンティ ¥4,195,800
2002年 ロマネコンティ ¥1,512,000
2007年 ロマネコンティ ¥2,160,000
2007年 ロマネコンティ ¥2,462,400
2008年 ロマネコンティ ¥1,720,000
2009年 ロマネコンティ ¥1,890,000
2009年 ロマネコンティ ¥2,570,400
2010年 ロマネコンティ ¥2,538,000
2010年 ロマネコンティ ¥2,570,400
2013年 ロマネコンティ ¥2,570,400

1997年 ロマネコンティ ¥3,380,000 1500ml
2010年 ロマネコンティ ¥4,320,000 1500ml

≫ 元の検索結果リストはこちら(価格が安い順)

最後に価格が一番高い「ロマネコンティ 1945年 3リットル 10億円」という桁違いのがあります。(※2019年12月時点では3.3億円

が、おそらくこの値段はダミーで、問い合わせた人に実売価格を提示しつつ交渉を受けるつもりなのではないでしょうか。

このレギュラーボトル4本分の特大ロマネコンティ1945年には貴重なストーリーが積み重なっており、「特別な年の特別な大きさの特別珍しいロマネコンティ(しかもフィロキセラで樹が抜かれる前)」という高付加価値が生んだ大富豪向けの骨董品・歴史的遺物です。もはや飲み物の価値ではありませんね。

ロマネ コンティは高い!でも確実に売れる

image by Laurent Fievet / AFP

意外に思われるかもしれませんが、ロマネ コンティは値付けが相場並なら確実に売れていきます。数年前のオンラインショップの在庫や輸入元の取り扱いリストを見返してみると軒並み完売しているのです。(つまり年々安い順から無くなって、市場価格が切り上がっている)

買い手は日本人以外に、中国や韓国から買い付けに来られることもあります。自分で飲むのか、転売目的なのかは不明ですが、価格推移を見る限りロマネ コンティはずっと値上がりし続けており、投資対象としても優良なのです。

冒頭でご紹介したロマネコンティを飲む会用に買った時、1978ヴィンテージの仕入値(ワインショップへ納入価格)は2002年頃で安いものは70万円でした。2007年頃には100万円~になり、2017年は150万円~になっています。

ロマネコンティはお店によって価格が全然違うこともよくあります(上記リスト内の1976年、1990年、2009年は違うショップ)。当たり年の1978年もまだかろうじて買えるようですが、ほとんど見かけません。200万円という販売価格は現在手に入るものとしては真っ当な価格(むしろ安い)、価格推移を見ると今後下がることは難しいと推測されます。

但し購入に際しては、古酒の特性として品質のボトル差が避けられません。開けて飲むまでわからないのです。状態が良い「当たり」に出会えれば幸い、もし外れても話のネタにして楽しみましょう。万が一フェイク(偽物)の場合は、重要な物証としてしかるべき機関に提出すべきでしょう。

それもまたワインを巡る旅の大切なエピソードになります。

ロマネ コンティの空き瓶が7万円!?

image by wineberserkers.com

ヤフオクなどでは、≫ ロマネコンティの空き瓶が高額出品されています。

空き瓶に数万円とは意味がわかりませんね。

しかも、ロマネコンティを含むDRCや高級ワインの空き瓶を販売するのは止めたほうがいいのです。空き瓶を使ってフェイク(偽物)が造られる可能性があるからです。

中身が偽物でも瓶が本物だと、より騙し易くなるのは自明。コスト数万円が百万円以上に化けるのだから買い手がいるとみて出品しているのでしょう。

上の画像右端の1978年 ロマネコンティは、別ヴィンテージのボトルが使われたフェイクです。キャップシールがプレーンなのとボトル下部にエンボスがあること、ルロワラベルの色で見破られています。
≫【参考】2016年ジュネーヴのワインオークション出品画像をチェックしたフォーラム有志による警告

フェイクに悩まされるブルゴーニュのトップドメーヌの中には「飲み終わったら瓶は割って欲しい」と言っている当主もいます。フェイクを憎む気持ちが伝わってきます。

飲まれるより語られることのほうが多い酒
それがロマネ コンティ

ロマネコンティはワインを知らない人でも「聞いたことがある」有名な銘柄です。

よく知られているのに本当に知っている人は少なく、伝説のように語られて高値に祀り上げられ、飲み物としての評価から遠ざかってしまっているのがロマネコンティの実情だと思います。

その境遇を想うと、なんだか可哀想になってミニ寓話を書きました。ぜひご覧ください。

≫ DRC ラ ターシュとミニ寓話「ロマネさん」