あのワインやチーズが安くなる!日欧EPA(日本とEUの経済連携協定)食品関連まとめ

2019年2月1日発効が決まった、日本と欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の食品関連をまとめます。(2018年12月20日追記)

食品以外の概要も記事下に少しあります。

メリットの一例:
EPAで安くなる輸入ワインやチーズなど
日本から条件緩和で輸出できる日本ワインなど

EUから輸入
現状
協定発効後
ワイン約93円もしくは15%/750ml即時撤廃/輸出証明不要
スパークリングワイン約136円もしくは15%/750ml即時撤廃/輸出証明不要
チーズ29.8%輸入量枠あり。段階的に関税無し(16年目)
パスタ30円/1kg段階的に関税無し(11年目)
チョコ10%段階的に関税無し(11年目)
キャンディ25%段階的に関税無し(11年目)
アイスクリーム21.0%~29.8%段階的に63%~67%削減(6年目)
牛肉38.5%段階的に9%(16年目*)
豚肉低価格帯の従量税482円/1kg
高価格帯の従価税4.3%
段階的に50円(10年目*)

段階的に関税無し(10年目)

341円/1kg関税維持(EUは生産少ない)
 日本から輸出
現状
協定発効後
日本酒€0.077(約10円)/1L即時撤廃/四合瓶・一升瓶輸出可
日本産ワイン€0.154(約20円)/1L即時撤廃/醸造方法規制撤廃
前年輸出額15百万円
緑茶3.2%即時撤廃
醤油等7.7%即時撤廃 前年輸出額57億円
冷凍ホタテ8%段階的に関税無し(8年目)前年輸出額35億円
柚子等12.8%即時撤廃
牛肉12.8%+€141.4~304.1/100kg即時撤廃

(*)輸入量急増に対するセーフガードあり

【参考資料】
≫ 日EU・EPA 2019年2月1日発効の見込み(農畜産業振興機構/2018年12月14日)
≫ 日EU経済連携協定(EPA)に関するファクトシート(外務省/2017年12月15日)
≫ 日EU・EPAにおける農林水産物の交渉結果概要(EUからの輸入)(農林水産省/2017年12月15日)
≫ 日EU・EPAにおける農林水産物の交渉結果概要(EUへの輸出)(農林水産省/2017年12月15日)
≫ 日EU・EPA酒類等に関わる大枠合意の内容(財務省/2017年7月)
≫ 日欧EPA 19年発効へ妥結優先(日本農業新聞/2017年12月10日)

いつから発効するの?

”協定文を取りまとめて2018年夏にも署名し、19年春までの発効を目指す”(日本経済新聞/2017年12月15日)
→予定通り2019年2月1日発効となりました!

発効と同時に関税が無くなるものと、段階的に無くなるものがあります。

関税がなくなると、輸入量・消費量ともに増えることが確実です。

香港では2008年にワインの関税をゼロにしてから、アジアにおけるワイン取引と流通のハブ(中継地・フリーポート)となり、国内消費量も激増しました。

日本とチリは2007年にEPA発効後、段階的にワインの関税を下げました(2019年予定で撤廃)。コスパの良さが人気となり、2015年にはチリがフランスを抜いて日本のワイン輸入量トップ国になりました。

ただ、高額ワインはもともと関税の割合が低いので(レギュラーボトルあたり約93円もしくは15%の安い方が適用)、実際に日本で増えるのは1,000円前後クラスの低価格ワイン中心という予想もできます。(そうなるとスペイン、ポルトガル、ハンガリー、フランスのヴァン ド ペイあたりが強そう)

面倒な輸出証明の手間と費用が不要になるのも低価格ワインに有利に働きます。

もちろん、関税がなくなっても円安ユーロ高が進めば、結局あまり変わらないということもありえます。

TPPと何が違うの?

農産物に関しては、日本はTPPよりも守りつつ(重要な米は関税維持、他も関税撤廃までの期間が長いなど)、攻めつつ(日本からの輸出品は関税即時撤廃が多い)、消費者の期待も高まる内容と言われています。

例えば、EPAのニュースでやたらとチーズが出てくるのは、EU側がチーズを猛プッシュしてきたのと、日本がTPPを超える市場開放となる条件で妥結したからです。

TPP(環太平洋パートナーシップ
熟成ソフトチーズ(カマンベール等):29.8% 関税維持
一部のフレッシュ(モッツァレラ等):29.8% 関税維持

日欧EPA
上記ソフト系含むチーズ      :16年目に撤廃

TPP参加国でチーズといえばオーストラリアとNZくらいで、まだ日本市場で人気があるとは言えないですが、EUには高品質なブランド産地チーズが沢山あります。それが関税ゼロで日本に流通するのは影響が大きいと考えられます。

またTPPではワインについて「8年目に撤廃」としているため、日欧EPAの方がずっと早く撤廃されます。

地理的表示(GI)って何?

「Geographical Indications」
ある商品の品質や評価が、その地理的的原産地に由来する場合に、その商品の原産地を特定する表示。条約や法令により、知的財産権のひとつとして保護される(≫ wiki

地域の農林水産物や食品ブランドの保護を目的とし、産地や原料、製法などを限定して、模倣品を禁止する制度。

EU側は「カマンベール ド ノルマンディ」など71品目
日本側は「神戸ビーフ」「夕張メロン」など48品目

image by www.maff.go.jp

従来は罰則が適用できなかったチラシやインターネット通販の広告、飲食店のメニュー表示にも規制を拡大。現在使われていたとしても、GI登録後7年で使用禁止に。

つまり「ゴルゴンゾーラ入りピザ」と言って他国産のブルーチーズをのせているようなピザ屋(どことは言いませんが)は表示を禁じられる。「~タイプ」「~スタイル」表示も禁止。

「パルメザンチーズ」などは例外

日本で粉チーズの代名詞として定着している「パルメザン(チーズ)」には、EPA発効後も使用できる例外措置を設ける。つまり日本市場では、本場イタリア産「パルミジャーノ レッジャーノ」とは別モノという認識がきちんとあるということでもあり、今後も混同して使用されてはならない。

「カマンベール」「モッツァレラ」も同様に例外として認められた。つまり「日本産カマンベールチーズ」「カマンベール入りソーセージ」は、本場のカマンベール ド ノルマンディでなくても名乗れる。

デメリット:
日本の生産者への影響

チーズに関しては、目安とされる輸入枠は16年目に3.1万トン。これは現在の国産消費用ナチュラルチーズ生産量2万トンを大きく上回ります。

生産者の生産性向上と競争力強化を目的に補正予算が約3200億円出ますが、いずれにせよ品質と価格で激しい競争となります。酪農関係者の中には「先生と競争するようなものだ」という声も。

酪農家が減っている中、新しいビジネスモデルの可能性も考えられます。

実は、フランスでも定番人気のフレーバーチーズ「boursin<ブルサン>」の日本流通品は、北海道のよつ葉乳業で委託生産されています。賞味期限の短いフレッシュチーズは輸入販売ビジネスモデルに向かないため、品質の高い日本の生産者に作ってもらって、すばやく流通させているのです。

また、ドイツのゾーリンゲンを代表するツヴィリング社の最高級包丁を岐阜県の関市で日本の職人が作っているように、日本の技術が海外のメーカーによって継承されて世界へ販売されるという道も、一案ではないでしょうか。

日本としては、世界的な和食ブームを背景にEUへの輸出を拡大するチャンスとしたいところですが、はたしてどれだけのアイテムが販路拡大となるかは日本次第というわけです。

近年、日本産ウイスキーがEUを含む世界中でプレミアム付きで売られているように、品質が非常に高いことが認められたり、食を含む日本のライフスタイルが浸透して(例:≫ 世界で日本のお弁当箱が大人気)、日本産の食品・生鮮品・酒類がブランド化されて、引く手あまたの未来が来ることを願っています。

食品以外の日欧EPA概要

◆ 世界の国内総生産(GDP)の約3割、貿易総額の約4割をカバーする、人口6億人規模の協定で、日本が妥結した最大級の「メガ自由貿易協定(FTA)」。

◆ 関税分野では、鉱工業製品と農産品を合わせて日本側が約94%(品目数ベースで農林水産品:約82%,工業品:100%)、EU側が約99%を撤廃する。

◆ 日本産乗用車(10%):8年目に撤廃

◆ EU産化学工業製品、繊維・繊維製品等:即時撤廃。

◆ EU産皮革・履物(最高30%):11年目又は16年目に撤廃。

◆ 著作権が、著作者の死後50年から70年に。
→ もし日本国内で著作権法も改定されるなら、≫ 最大の著作権収支赤字相手のアメリカも対象に

◆ 投資関係の合意は持ち越し。
→ 企業が投資先の国を訴えることができるヤバイ条項が入っているとか、いないとか。

アメリカはどうするの?
今後日本はどうするの?

トランプ政権は保護貿易主義なので、アメリカは自由貿易の流れからは取り残されることに。日欧EPAが双方にとって成功すると、改めて日米FTAの打診や、TPP参加の再検討案が浮上するかもしれませんが、さてどうなるか。

カリフォルニアやワシントン州産の美味しいワインはたくさんあるけど、日本市場はますますEU商品を買い、さらにEU輸出を狙うことになります。

自由貿易協定には、途上国からの安価な労働力に自国民の職を奪われるという懸念や、グローバル企業だけが儲かるのではという批判もあります。

もし世界が競争と協業で繋がっているのなら、これからはローカルな生産者や個人までもが、世界を相手にして豊かになる方法を見つけていく時代なのでしょう。

世界へモノやサービスを提供し、世界からモノやサービスを受け取る。それがしやすい仕組みが人を幸せにするのか、過酷な競争を生むだけなのか、まずは自分の商売からコミットしてみようと思います。

【参考資料】≫ EPAとは?(経済産業省)